雨上がりの虹のむこうに
 何を言われたかわからずに、一瞬言葉につまる。


 山並さんは照れたように名刺の写真を私の目の前まで上げて、説明をはじめた。


「これは仕事用の名刺なんですが、冬の白馬岳と、紅葉の日光を撮ったものです。一応、賞を取った作品のファイルもあります。時間があるなら、そちらを見て決めて下さい」


 小さな名刺の中に、楓の鮮やかな紅葉と、青空を背景に雪を戴いた白馬の山並みがくっきりと切り取られていた。ただただその存在感に圧倒される美しさがそこにはあった。


「風景写真と、結婚式の人物写真では畑違いだと思われてもしかたないんですが、人物写真もそこそこ撮影ができます」


 こんなに綺麗なものを撮影できるのは、綺麗なものを見ることのできる目がある人だ。くもることのない心を写し取ったかのように、どこまでも鮮やかで息をするのも忘れてしまう。


「どうでしょう…使い物になりませんか? 」

 
 不安に震えた声が耳を打ち、我に返る。
 
「びっくりしました。あまりにも鮮やかで…綺麗で」

 小さいさけれど、真摯な目がじっと見つめていることに落ち着かなくて、どこかに座って話をきいてみるべきだと思えた。

 どこか心を見透かされているような居心地の悪さがあった。


 この人には、嘘やごまかしが効かない。


 小さくため息をついて、私は心を決めた。


「立ち話ですむことではありませんから、どうぞ中にお入り下さい。上の者も交えてお話しを聞かせてください」
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