会社で恋しちゃダメですか?
「だから、わたしのことは、放っておいてくださいっ」
園子が叫ぶ。涙がにじんで来た。
「放っておけないから、困ってるんじゃないかっ」
園子は山科の腕の下を、強攻突破しようと身をかがめる。山科はすかさず園子の腰に腕を回して、走り抜けようとする園子を捕まえた。
「山本のことが好きなのなら、それはそれでかまわない」
右上から、山科の声が聞こえる。
「ただ……確認したいだけだ」
園子の頭に血が上る。いや、もうとっくに昇りきっていた。
「わたしが、部長を好きだっていって、何か変わるんですか?!」
園子は言った。
「部長はあおいさんを忘れるんですか? 父親に無理矢理引き裂かれた大切な人を、自分を追いかけて来てくれた人を、忘れて……」
園子は大きく息を吸う。
「わたしと一緒にいてくれるんですかっ?」
山科の腕の力が緩む。園子の身体がふっと自由になった。
「好きです、部長」
そんなこと、言うつもりないのに。
「ずっと好きでした。忘れてくれと言われても、忘れられませんでした」
ああ、なんでこんな馬鹿なことを口走ってるんだろう。
「だから、わたしのことは、もう、かまわないでください」
園子は山科の脇をすり抜けて、階段へと駆け出した。今にも倒れそうな身体を無理矢理動かして、よろけながら、つまづきながら、なんとかビルの外へと転がり出る。
無我夢中でタクシーをひろい、目をつむって、がんがんに痛む頭をかかえながら。
泣き出した。