会社で恋しちゃダメですか?
がやがやと会議室をでていく社員達の背中をみながら、園子は軽く安堵の溜息をついた。とにかくプロジェクトを続行できることになったし、なにより山科と社員の関係が断裂するということもなかったからだ。
山科がボールペンを指で弄びながら、戸口のところで振り返る。そして「ありがとう」と声をかけてきた。
「いえ、なんだか失礼なことを言ってしまって、すみませんでした」
園子は頭を下げる。
机の上のゴミを集め、使用済みのカップをトレイに下げていく。山科はボールペンを胸ポケットにしまうと「手伝うよ」と隣に来た。
山科の存在が近くにあるというだけで、園子は泣きそうになる。もう終わりにしようと思った気持ちなのに、なかなか区切りがつかない。いつものシトラスの香りがして、園子の胸がかき乱された。
「わたしがやりますから」
園子は山科から一歩遠ざかり、片付けを続ける。
「もう体調は大丈夫?」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
園子は手を止めて、深く頭を下げた。
「この間、池山さんの腰に腕を回した時、なんだか熱いとは思ったんだけど……気遣えなくて悪かったな」
「いえ……」
園子は首を振る。この話はおしまいにしたい。熱にうなされて口走ったことを、忘れてほしかった。
「俺は池山さんに、ずいぶんひどいことをしたな」
山科が言う。
あ、これ。
今わたしの気持ちに返事をしようとしてる?
「NO」と。
そう返事をしようとしてる?
心臓がびりびりと痛くなる。園子はあわてて「忘れてください」と叫んだ。