会社で恋しちゃダメですか?
「彼女を連れて行くわけにはいかないの」
あおいが園子を見て言う。
「今はわたしがTSUBAKIの顔」
山科は園子に視線をやると、気持ちを決めたような表情になる。あおいの方へ向き直った。
「最初に会ったときに、言ったよな。もう元には戻れないって」
園子は驚いて隣のあおいを見た。
彼女の美しい顔に、ヒビが入る。
壊れる直前というような危うさ。
「あおいは、俺の自由の象徴だった。俺に新しい世界を見せ、違う選択肢もあるって気づかせてくれた。感謝してるし、あおいを大切にしたいとも思う。でももう、あの頃の俺たちじゃないんだ」
あおいは黙ったままだ。園子はこの修羅場になぜ自分がいるのか理解できない。これは聞いてはいけない話じゃないの?
「帰国したとき悟ったんだ。俺にはこの道しか残されていない。結局は逃げられない。特別な人をつくって、つらい思いをするのはもうたくさんなんだ」
あおいが目を細める。冷たい視線を山科に送った。
「いずれはお見合い相手と結婚する、そういうこと?」
山科は黙る。否定も肯定もしない。
「それは、今、誰に話してるの? わたしに? それともこの人に」
あおいが園子を指差す。
山科の顔からすっと表情が消えた。
「そうやって、ごまかし続けるつもりなのね」
あおいが椅子からゆっくりと立ち上がる。そして会議室の扉を開いた。
「わたしも最初に会ったとき、言ったでしょ。『あきらめない』って」
あおいは背を向けて、部屋を出て行った。