会社で恋しちゃダメですか?
山科はそんな園子の心を知ってか「池山さんの言う通りだよな」と言った。
コンピュータの前で、少し首を傾げる。
昼間の日差しが、山科の顔に影を作る。
深く考えているような表情。
それから優しげな笑みを見せた。
「あおいといがみあいたくはないんだ。彼女は、俺が俺として過ごすことのできた唯一の時間に共にいた女性で、今も大切なことは変わらない」
山科が目を閉じる。
「あの頃に戻れたらいいって、そう思う日もある」
園子は無理に笑顔をつくる。
「よかったです。部長がそう気づけたのなら」
「……そう?」
「はい」
山科は園子の顔を見ると、穏やかに微笑む。
「ありがとう」
そう言った。
部屋を静かに出ると、園子は手を握りしめて、うつむく。そのまま誰にも顔を見せないように、トイレへ向かった。
自分が言ったんだ。
あおいさんと向き合ってくれって。
自分が言った。
個室に入ると、両目を手の平でぎゅっと押さえる。
やっぱり、紀子の勘違いだった。
その分余計に、部長の言葉が心臓に深く刺さる。
かさぶたになりかけていた傷が、大きくえぐられる。
園子は声を出して泣き出した。
つらいって分かっていても、部長を見ることをやめられない。
わたしを見ていないと知っていても、目で追ってしまう。
彼が好きでたまらない。
だから、今、痛くて死んでしまいそうなんだ。