会社で恋しちゃダメですか?
「園子、帰らないの?」
紀子が心配そうに訊ねた。
「うん、もうちょっと。おわんなくて」
園子はまっすぐコンピュータの画面を見つめながら、紀子にそう言った。
「わたしも残業しよっか。一人じゃ怖いでしょ?」
紀子が気遣う素振りを見せる。
「いいって。今日は週末だし、予定あるんじゃない?」
「うん、でも……もう、みんな出ちゃったから、園子一人だよ」
「大丈夫。戸締まりして帰るし、もうすぐ終わるから」
「そう?」
「うん。おつかれさま」
「じゃあ、お先に失礼するね」
紀子は後ろ髪を引かれるように、何度も園子を振り返りながら、帰って行った。
一人きりは確かに怖い。
でも、家で一人でいろんなことを考えるよりも、仕事をしていた方がまし。
園子はオフィスの扉に鍵を閉めて、席に戻った。ふうと溜息をつく。
しばらく頭を空っぽにして、残していた仕事を片付けた。
でもたまに頭によぎる。
山科の腕にあおいが手をかけて、二人並んで歩いている姿。
幸せそうに笑いあう姿。
園子は、時たま出現するその映像を無理矢理押し込めると、仕事を続ける。書類を作成し終わると、印刷。静かなオフィスに、カタンカタンというプリンターの音が響いた。
最終チェックをしてから、クリップで書類を閉じて、手に持つ。
それから山科の部屋へと向かった。