腹黒教師の甘い策略
「……有沢、」
「は、はい!?」
どうしたものかと悩んで黙っている私にしびれを切らしたのか、電話越しにぼそっと谷崎が呟いたその声は、かすれていていつもより低かった。
…そんなにつらいの?
また少し不安が募り、何も言えずに谷崎の言葉を待つ。
「有沢、」
「……なに?」
「……有沢、」
「だから何よ!?」
うわ言のように何度も私を呼ぶ谷崎に、しびれを切らして少し声を荒らげた私に、谷崎はとんでもない言葉を囁いた。
「……会いたい。」
「えっ……?」
消え入りそうな声で会いたいと呟いた谷崎。
……嘘でしょ?今の本当に谷崎が言ったの?会いたいって?私に?
パニックになりかけた私に畳み掛けるように谷崎がまた言う。
「……有沢、会いたいんだよ。今すぐに。」
「た、谷崎、とりあえず、落ち着いて?ね?」
「……落ち着いてる。」
……ですよね。淡々としてますもんね、声が。
少し不機嫌そうに呟いた谷崎。それでもその言葉の意図がわからない私は、また黙りこむ。
風邪のときとかの、人肌が恋しくなったってやつ?
「いいから来い。絶対来い。
後でメールで住所送るから。」
「はい!?いやいや、ちょっと待ってくださいよ谷崎さん!」
慌ててよくわからない敬語を使う私をよそに、谷崎は“じゃあ、また後で。”と言い残して、それはそれはすんなりと電話を切った。