白いジャージリターンズ~先生と私と空~

私の家庭は、他人から見れば幸せそのものだったと思う。

仲の良い両親と姉の4人家族。

ずっと辛かったわけじゃない。
でも、辛い夜もあった。
逃げたいなって思ったこともある。

でも、私が逃げたらこの家はおしまいだって思った。
大好きなお母さんを守るのは私だって、そう思って、急ぎ足で家に帰る。

体育の授業が好きだったのは、先生に会えるからだけじゃない。

大きくて青い空の下で授業をするっていうのが大好きだった。

先生の声を聞きながら、空を見上げて、変化する雲を眺めてるのが好きだった。

“矢沢ぁ?聞いてんのか?”

何度目かの授業の時、出席簿で頭をコツンと突かれた。


“すいません”と謝る私に先生は言ってくれた。

“確かに見とれるくらいに綺麗な空だな”って。


先生も同じだったのかもしれないね。

辛いこと、逃げたいこと、いっぱいあったはずだもん。

そういう時、ふと空を見上げると気持ちが落ち着くんだ。


先生は、怒ったりしなかった。

そのかわりに、“どした?”って声をかけてくれるようになった。


私が空を見ている時は、何かを考えている時なんだって、先生にはわかっていたんだと思う。

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