残念御曹司の恋

それでも、彼はまるでそれに気が付いていないかのように振る舞っていた。

「いつか実咲さんを解放してくれる方に会えるといいですね。」

そう言って、私をやんわりと突き放す。
その役目を果たすのは、自分ではない。
彼が私に見せる優しさは、私が好きだからではなくて、あくまで私が社長の娘だからだ。
たまたま私の本音に気が付いて、その境遇を少しだけ哀れんだだけだ。

当たり前のことだが、私はそれに大きくショックを受けた。
ああ、誰も私を助けてくれる人などいないのだと。
私を本気で愛してくれる人などいないのだと。
悟った瞬間だった。


そらからの私は、変わることなく愛想笑いと、親が望むような従順さを守りながら、ただぼんやりと生きてきた。

エスカレーター式で大学を卒業し、働かなくてもよいと言われるまま、花嫁修行を真面目にこなした。

こうして、見事に従順な箱入り娘が出来上がると、父は私に数々の縁談を持ち込んだ。

中には会社に有利になるような政略結婚めいたものも紛れていた。
意外とこんな仮面をかぶった役立たずな私でも需要はあるらしい。

だから、本当に淡々と私はお見合いをこなしていった。
相手なんて誰でもいい。
とにかく、父が勧める順番に。
時には、くじ引きのようにお見合い写真を引いて選んだこともあった。

でも、どんなにたくさんお見合いをしても、話は纏まらなかった。
なぜなら、相手が軒並み断りを入れてきたからだ。
そして、どうやら、それには私の方に原因があったらしい。

いつしか、私はこう呼ばれるようになった。
『無気力令嬢』と。
< 101 / 155 >

この作品をシェア

pagetop