残念御曹司の恋
個室の襖が遠慮がちにノックされたのは、その時だった。
料理が運ばれてきたのだと思い、「はい」と返事をした。
「実咲さん、失礼します。」
そう声を掛けて入ってきたのは、驚くことに、川合さんだった。
「どうして、ここに?」
「いえ、熊澤様が先にお帰りなったようですが、何かあったのですか?」
そう尋ねられて、思わずため息が出た。
「ああ、ひょっとして…父に見張ってくるように頼まれたのね。」
「えっと、そういうわけでは…」
「隠さなくてもいいの。忙しいのに父が変なこと頼んでごめんなさい。せっかくだけど、たった今お断りされたから。父には私から言っておくわ。」
「えっ…」
「あっ、でも私が原因じゃないわよ。熊澤さん、好きな方がいらっしゃるんですって。」
驚きながらも、川合さんは少し怒ったような顔をしていた。
「好きな人がいるのに、縁談を受けるだなんて…」
「お互い様よ。私もそうだったから。」
そう告げると、彼はばつが悪そうな顔をした。
「川合さん、どうかこの前私が言ったことなら、気にしないで。私が勝手に好きになっただけだもの。あなたには何も落ち度はないわ。」
「いえ、それは…」
「どうか、これからも父をよろしくお願いします。」
これ以上、私のせいで彼の仕事がやりにくくなるのは避けたかった私は、彼に思い切り頭を下げた。
「私、父に言おうと思って。しばらく、縁談はお断りしますって。」
彼が驚きに満ちた視線を送ってくるが、私は構わずに続けた。