残念御曹司の恋
そのまま外に連れ出され、社用車の助手席に乗せられた私が命じられたのは簡単な道案内と食事の場所を考えることで。
あまり時間が無かったので、その日のお昼は知っているお蕎麦屋さんに案内した。
「蕎麦よりご飯物の方が腹持ちがいいな」とカツ丼を頼もうとする熊澤を止めて、盛り蕎麦を注文させる。
「長野の人間は郷土愛が強いですから、話の種に蕎麦は食べておいた方がいいです。蕎麦屋でカツ丼頼んだなんて話したら、まとまる商談もまとまりませんよ。」
力説すると、熊澤は笑いながら「なるほど」と引き下がった。
夕方には、時間が少しだけ空いたので、善光寺へと連れて行った。
「観光しにきたんじゃない」と抵抗する熊澤を、またしても「話の種だから」と説き伏せた。
二日目、渡されたスケジュールを見て、もしかするとどこかへ立ち寄っている余裕などないかもしれないと思った私は、三人分の軽食を持参した。
案の定お昼の時間が取れなかった車内で、私が配ったのは自家製の‘’おやき‘’だ。
目を見開いて驚く熊澤に、「おひとつどうぞ」と手渡す。
運転しながらでも食べられるからと、運転席の村本にも渡した。
「中身は、今渡した方が野沢菜で、あと茄子も有ります。普通は名前の通りに焼く場合が多いですが、うちのは昔から蒸して作るんです。」
説明すると、さらに驚かれた。
「君が作ったのか?」
「ええ、母にも手伝ってもらいましたけど。しょっちゅう作ってるので、お握りを握るみたいな感覚です。」
「そうか。忙しくて昼を抜くことはよくあるんたが、助かる。ありがとう、いただきます。」
彼は御曹司らしく律儀にお礼を言ってから食べ始める。
「野沢菜は、初めて食べたな。」
その一言に、今度は私の方が驚いた。
「その顔だと、この話も営業先で話さない方が良さそうだな。」
私の驚いた顔が可笑しかったのか、熊澤は声を上げて笑った。
最初は、緊張してどうすればいいか分からなかった私も、丸二日彼と過ごすうちに、ずいぶんと打ち解けてきた。
移動中の車内は真面目な仕事の話が半分くらいで、あとは、出張で行った海外の話から村本の飼っている犬の話までいろいろな話をした。
熊澤と村本の話は、ほとんど県外に出ずに生きてきた私にとって新鮮で面白かった。
そして、二日目の夕方、工場へと戻ってくる頃には、明日で最後かと思うと、寂しいと感じるようになっていた。
あまり時間が無かったので、その日のお昼は知っているお蕎麦屋さんに案内した。
「蕎麦よりご飯物の方が腹持ちがいいな」とカツ丼を頼もうとする熊澤を止めて、盛り蕎麦を注文させる。
「長野の人間は郷土愛が強いですから、話の種に蕎麦は食べておいた方がいいです。蕎麦屋でカツ丼頼んだなんて話したら、まとまる商談もまとまりませんよ。」
力説すると、熊澤は笑いながら「なるほど」と引き下がった。
夕方には、時間が少しだけ空いたので、善光寺へと連れて行った。
「観光しにきたんじゃない」と抵抗する熊澤を、またしても「話の種だから」と説き伏せた。
二日目、渡されたスケジュールを見て、もしかするとどこかへ立ち寄っている余裕などないかもしれないと思った私は、三人分の軽食を持参した。
案の定お昼の時間が取れなかった車内で、私が配ったのは自家製の‘’おやき‘’だ。
目を見開いて驚く熊澤に、「おひとつどうぞ」と手渡す。
運転しながらでも食べられるからと、運転席の村本にも渡した。
「中身は、今渡した方が野沢菜で、あと茄子も有ります。普通は名前の通りに焼く場合が多いですが、うちのは昔から蒸して作るんです。」
説明すると、さらに驚かれた。
「君が作ったのか?」
「ええ、母にも手伝ってもらいましたけど。しょっちゅう作ってるので、お握りを握るみたいな感覚です。」
「そうか。忙しくて昼を抜くことはよくあるんたが、助かる。ありがとう、いただきます。」
彼は御曹司らしく律儀にお礼を言ってから食べ始める。
「野沢菜は、初めて食べたな。」
その一言に、今度は私の方が驚いた。
「その顔だと、この話も営業先で話さない方が良さそうだな。」
私の驚いた顔が可笑しかったのか、熊澤は声を上げて笑った。
最初は、緊張してどうすればいいか分からなかった私も、丸二日彼と過ごすうちに、ずいぶんと打ち解けてきた。
移動中の車内は真面目な仕事の話が半分くらいで、あとは、出張で行った海外の話から村本の飼っている犬の話までいろいろな話をした。
熊澤と村本の話は、ほとんど県外に出ずに生きてきた私にとって新鮮で面白かった。
そして、二日目の夕方、工場へと戻ってくる頃には、明日で最後かと思うと、寂しいと感じるようになっていた。