残念御曹司の恋
正直、谷口さんの心変わりより、私の気が変わるのが早いことはないだろうと思う。

こっちに来て二ヶ月、最初は無理に竣を忘れようとした。
心の中の彼が居た場所を必死に何かで埋めたり、塞いだりしようと思った。
でも、どう足掻いてもすぐにはどうしようも出来ないくらいの大きな穴であることに気が付いたとき、いっそのこと一生このままでもよいのではないかとすら思い始めた。

そんな自分に、自分で引いた。
重い女を通り越して、もはや変態かもしれない。
やっぱり、私は彼の元を離れて正解だったと思う。

10年越しの穴も、いつか死ぬまでには埋まっていくのだろう。
でも、今はただ私の中に残された「彼」を大事にしたい。

そのために、私はこの街に来たのだと思うことにした。


ゆっくり、ゆっくり。
気が遠くなるくらいのスピードで埋まっていけばいい。

いつか、また。
ただの同級生として、彼に会えるようになる日まで。

私は、この街でひっそりと生きていこう。
そう改めて心に誓ったのだ。
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