残念御曹司の恋
竣は、隣の窓口に座る主任に向けてにこりと微笑むと、にこやかに口を開いた。

「熊澤と申します。こちら、失礼してもよろしいですか?」

私の窓口の椅子に掛けてもよいか確認する。

「え、ええ、どうぞ。」

いきなりの場違いな客に、さすがの主任も慌てた表情を見せながら返事をする。

竣は、私の真正面に腰掛けると、まっすぐに私を見て言った。

「久しぶり、司紗。…また、ずいぶんと手近なアメリカだな。」

私は頭がパニック状態で、もはやその言葉がジョークなのか嫌みなのか判別が付かない。
私は状況が飲み込めないまま、慌てて取り繕った。

「…ええ、なかなかいい街よ。気に入ってるの。竣は、出張帰り?」

彼の後ろに置かれた、大きなキャリーケースに視線を移す。

「ああ、本場のアメリカに。一週間くらい行ってた。直接こっちの空港に降りたから荷物もそのままで…そうそう土産もある。」

そう言うと、手元の紙袋からいかにもアメリカといった派手な菓子箱を取り出す。

「これ、宜しければみなさんでどうぞ。」

彼が微笑んで渡したのは、何故か私ではなく隣に座る主任だった。
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