残念御曹司の恋
「ねえ、本当におかしくない?」
珍しく不安げな顔で、そう問いかける司紗に、もう何度目か分からない言葉を返す。
「おかしくないよ。」
「やっぱり、スーツの方がよかったんじゃ…」
「仕事じゃないんだから。あんまり気にするなよ。」
「気にするわよ。あー、やっぱりあっちのワンピースだったかも。」
先ほどから俺が何を言っても聞いてないんじゃないかと言うくらい焦っている。
そんな彼女が見られるのは、ほとんどない機会だから貴重だ。
「大丈夫だって。」
「いや、でも心配で…」
「紫里ちゃんも、かわいいって太鼓判押してたじゃん。」
「むしろ、心配になってきた。」
ここまで彼女を追い込んでいる理由は、全て自分への愛だと思えば、正直悪い気はしないけど。
「緊張しすぎて、吐きそう。」
愛車の中での大惨事は避けたい俺は、信号で停止したのを機にハンドルから片手を離して彼女の手をしっかり握った。
「大丈夫。何も心配することはない。言っただろ?話したら二人とも大歓迎だったって。」
「でも、やっぱり自信ない。庶民の私が気に入られる訳ない気がしてきた。
」
ドラマの見過ぎか、変な想像をして顔を曇らす司紗にやや語気を強めて言った。
「俺が選んだ人間に、いつも間違いはない。」
とたんに驚いた顔をして、こちらを見つめる司紗に、今度は軽く微笑みかけた。
「だから、堂々としてればいい。」
その言葉に少しだけ堅い表情を緩めた彼女に畳みかけるように尋ねる。
「それとも、司紗は俺に見る目がないと思ってる?」
ハッとしたように、急いで首を横に振る。
「ごめんね…ありがとう。」
そう言って握った手を握り返してきた彼女は、もうすっかり前を向いていて。
その凛とした表情は、いつも通りの俺の好きな司紗のそれで。
少し強気な微笑みは、何より彼女の人柄を表していると思う。