残念御曹司の恋
離れを訪ねて来ていたとはいえ、この二人と司紗は何度か顔を合わせたことがある。
その時に、友達として軽く紹介しただけなのに、まさかそれを覚えているとは思わなかった。
だから、司紗とも初対面の体で話を進めようと打ち合わせしていたのだ。
司紗はすぐに事態を理解したのか、遠慮がちにしゃべり始めた。
「ご無沙汰しています。まさか、私のことを覚えていただいるとは思わなくて、失礼しました。」
「覚えてますよ。だって、ねえ。」
母は再び仲本さんと顔を見合わせる。
「竣って、わかりやすすぎるんですもの。あはは。」
そう言って歩きながら俺をからかう二人に、何だか居心地の悪さを覚えながらも、応接間に司紗を連れて行く。
「お父さんは何も知らないから。安心して。」
背後から母が声を掛けてきた。
いったい何が安心なのか、そして、二人は何を知ってるのか気になったが、ひとまず気を取り直して、ドアをノックしてから部屋に入った。
しばらく待っていると父がやってきて、改めて司紗を両親に紹介した。
母親は時折にやにや俺の方を見てきたが、余計な口は挟まずにいてくれた。
高校の同級生だったこと。
ずっと親しい友人だったこと。
司紗の前と今の仕事のこと。
この頃には司紗もいつもの調子を取り戻し、二人からの質問にはきはきと答えていく。
明るくしっかりとした印象の司紗を、両親もすっかり気に入ったようだった。
「で、いつ頃結婚する予定なんだ?」
父親が確認してきたので、俺は素直に考えていることを話した。
「いろいろと準備もあるし、式は一年後くらいかな。 ただ、近いうちに籍だけは入れたいと思ってる。司紗がこっちに戻って来るのと同時に一緒に暮らそうと思ってるから。 」
少しくらい反対されるかとも思ったけれど、俺の予定は「いいんじゃないか」とすんなり了承された。
「住むところは決めたのか?」
「ああ、それはまだ今から。マンションでも買うかな。」
そこまで話を進めれば、今度は隣に座る司紗が驚いた顔をした。
「えっ?マンションって。」
「うん。明日何件か見に行こう。俺は司紗の気に入ったところでいいよ。」
なぜか、慌てふためく彼女を微笑ましく見つめながら両親はくすくす笑い出す。
「竣、お前、俺に似て強引だな。」
「司紗さんに逃げられないよう必死なんですよ。」
またしても居心地が急に悪くなった俺は、小さなため息をついた。