残念御曹司の恋
結局勧められるまま、我が家で夕食も一緒に食べることになり、準備が出来るまで離れの俺の部屋で待つことにした。
司紗は準備を手伝うと言ったが、仲本さんが、私だけで十分だと譲らなかったためだ。

「よかった、無事にお話ができて。」

二人っきりの空間でようやく心からホッとしたのか、司紗は気が抜けたようにソファーに身を沈めている。

「だから、大丈夫だって言ったろ?」

俺は、彼女の隣に腰を下ろす。

「でも、不安だったから。」

上目遣いで見上げてくる司紗が無性に可愛くて、そっと抱き寄せた。
もちろん普段の司紗も魅力的だが、たまにはこんな風にしおらしい彼女も悪くない。

「ああ、まずいな。司紗が可愛すぎる。」

このまま閉じこめてしまいたい衝動に駆られる。

「ちょっと、竣…」
「大丈夫。ここには誰も来ないよ。」

わずかに抵抗を見せた司紗を強引に説き伏せる。
後頭部に手を回し、いきなり深く口
付ければ、司紗が目を見開いた。

「これ以上はダメ!」

さすがに、本気で抵抗する彼女を渋々離すと、司紗は「そう言えば」と、何かを思い出したように話し始めた。

「マンションって何?私、聞いてないんだけど。」
「そうだっけ?でも、一緒に暮らそうって話してたから。」

てっきり、司紗も同じつもりだと思っていた。

「私は、ここに住むのかと…」

そう言って彼女が指を指したのは、今いるこの場所で。
どうやら、司紗は俺の家に住むのだと勘違いしていたらしい。

俺の部屋があるこの離れは、十分な広さがあるし、一応小さいなりにもキッチンや風呂などの水回りを完備しているから、二人で生活するのにも困らない。
そもそも、両親が新婚時代をここで過ごすために建てたのだから、それは当然の話だ。
しかし、しばらく考えを巡らせた後、俺は首を横に振った。

「嫌だよ。俺は引っ越したい。」
「でも、竣も忙しいのに引っ越しなんて大変だし。」

不思議そうに首を傾げる彼女に、俺はきっぱりと告げた。

「二人っきりの暮らし、誰にも邪魔されたくないだけ。」

甘く囁けば、司紗は顔を真っ赤にしていた。
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