極甘上司に愛されてます
考え事をしながら歩いていいると、胸元にドン、と軽い衝撃が触れて我に返る。
どうやらすれ違った女性と軽くぶつかってしまったようだ。
『――あ、すいません』
『いえ。私の方こそよく見ていなくて』
五十代くらいだろうか。手には果物の盛り合わせを持ち、作業着風のツナギにジャンパーを羽織った活動的なスタイルの彼女は、俺にぺこりと頭を下げると小走りで反対方向に向かっていき、さっき俺が出てきた扉をノックしていた。
見舞いって、もしかしてあの人か?
全く見覚えがないが、菊爺とどんなつながりがあるっていうんだろう。
……ま、余計なお世話か。
俺は自分の進行方向に向き直ると、清潔感溢れる白い廊下を歩きながら、予定より早く訪れてしまった自由時間をどう潰せばいいか、考えあぐねていた。
*
大して実のない週末を過ごし、迎えた翌週の火曜日。
本当なら俺が一緒に行くはずだった、ブライダル特集の最後の取材に、北見と佐藤が出かけていた。
幸い、“俺が一緒に行きたかったのに、つまんねー”などと思う暇もないくらいに朝から忙しく、昼飯にありつけたのも午後二時ごろ。
外に出るのが面倒で、その内容は机の引き出しにいくつかストックしてあったカップ麺という質素なものだったが、やっと訪れた休息に少し気を抜いていた。