極甘上司に愛されてます
『……本当に、彼女はいないんですよね?』
いっそ“いる”と言ってしまった方がお互いのためなのだろうか。
美緒のしつこい質問攻めに負けそうになり、一瞬そんな風に思った。
でも、いつ誰に聞かれてもおかしくない会社の廊下という場所が俺を踏みとどまらせ、結局真実は口に出さないまま。
『今はいませんけど……』
ため息交じりに答えて立ち止まると、美緒は凛とした声で言う。
『それなら私、諦めません』
言い切ったと同時に、彼女の腕がスッと伸びてきて俺の首を拘束し、呆然としている間に唇を奪われていた。
……実力行使、ってわけか。
実際こういう方法でなびく男もいるのかもしれないが、生憎俺には逆効果だ。
人の心は意地なんかじゃ動かせない。
唇がぶつかることをキスと表現するのは、そこに想いがあるときに限る。
……つまり。こんな行為は、とても不快だ。
俺は心の温度が下がっていくのを感じながら、彼女の肩をつかんで自分から引き離す。
『……いい加減、怒るぞ』
そして怒気を滲ませた低い声を出すと、少しひるんだらしい美緒がきまずそうに目を逸らす。
少しは懲りたか……?
『……また、来るから』
けれど彼女はそう言い残すと、俺の手を払いのけて会社を去った。