猫かぶりの同居生活
「無理に起きるな」

「いえ、大丈夫です。ここは?」

 枕をクッションにしてベッドに座り直しながら部屋を見回した。小さな部屋の中には清潔なベッドと冷蔵庫、テレビが一つずつ。

「宝来総合病院の病室だ。階段から落ちたんだが、覚えてるか?」

「え? あ、はい。なんとなくですけど」

 確か公園脇の細い階段を登ってて……

「すれ違った時に俺のギターケースが当たったんだ」

 椅子から立ち上がったのは長い金髪を一本の三つ編みにした男の人。所々に赤いメッシュが入っている。

「あ、思い出しました。猫が飛び出して来たんですよね。でもあれはわたしが悪かったんです」

 驚いた拍子によろめいて、そこでちょうどよくギターケースがぶつかったんだ。
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