キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「でも子供は可愛いから、なんとか頑張らなきゃね……」


そう言って写真をしまうと、また両手を私の肩に置いて、マッサージを再開した。

だんだんとその手が前に異動してきて、肩と呼ぶにはきわどい、鎖骨の上あたりに指先が触れる。

ああ、だめだ。気持ち悪い。


「私、勉強してきます!お客様がきたら呼んでください」


杉田さんの手を振り払うように立ち上がると、急いで補聴器ルームに飛び込んだ。

うちのお店では補聴器も扱っている。

けれどその基本も何も知らない私は、暇なときに店長に検査器の使い方を覚えろと言われていた。

人が二人くらいやっと入れる大きさの、防音になっている個室に入って息をつく。

とりあえず安心かな。少ししたら出て行こう。

それにしても杉田さん、突然どうしちゃったんだろう……。

ぼーっと機械をにらんでいると、安全だと思っていた個室のドアが突然開いた。


「それ、使い方わかる?教えてあげるよ」


杉田さんはあくまでも、親切心を前面に出してくる。

けれどその笑顔も、今では裏があるようにしか見えなかった。


「え、でも……ここにこもっちゃったら、お客様が来てもわからないし」

「大丈夫。ちょっとだけ開けておけば、自動ドアが開く音くらい聞こえるよ」


下心がないなら全開しとけっつうの。

はいそうですかなんて言う女子がいるか。


< 54 / 229 >

この作品をシェア

pagetop