キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~
「どうしてすぐに言わなかった?」
「一度で終ると思っていたんです。すごくひどいことをされたわけでもないし」
矢崎店長はタバコを灰皿でもみ消すと、こちらを向く。
「ばか。お人よしなんだよ、お前は」
吐いた息から、たばこのにおいがした。
「俺が女でお前の立場でも、補聴器ルームに閉じ込められそうになったら、恐怖を感じるだろうよ。それに俺の休日を狙って近づいてくるとか、家族を盾にするとか、卑怯極まりない。俺はそういう卑怯なことが大嫌いなんだ」
って、私に言われても。
怒られているわけじゃないけれど、明らかにイラついている様子の店長を見ていると、ハラハラする。
その一方で、店長が私の気持ちをわかってくれたことに、ホッとしてもいた。
『そんなの、大した事じゃない』なんて態度を取られたら、再起不能になっていたかも。
「平尾さんのことはともかく、杉田さんはこのままじゃ絶対に許さない」
「あ、あの、許さないってどうするおつもりで……?」
「心配するな。少し注意するだけだ。地区長に言いつけるようなことはしない」
「そうですか……」
良かった。地区長に話が行ってしまったら、降格や異動処分になることもありえる。
そこまで大事にしたくはなかった。ただ、やめてくれればそれで良い。
「来月からはシフトを調整して、なるべく会わずにすむようにする。ただ来週水曜から昇進試験で俺がいない日が2日続くから、そのときだけ心配だが、我慢してくれるか」
「はい」
「長井にも頼んでおくけど、自分でもじゅうぶん気をつけろよ」