君を好きな理由
睨んでみても、ニコニコしているだけで、ゆったりと寛いでいる。

気がつけば、よく笑うようになったと思う。

最初は、本当に無言だったのよね。

顧問がよくしゃべるから、付き添いがぺらぺらとしゃべるはずもないんだけど。

いつも楽しそうに身ぶり手振りで“元気”アピールする顧問に、入口辺りに無言で無表情で立っている葛西さん。

とっても苦手だった。

静かで冷静に佇んでいる人って、私の回りにはいなかったし、実は睨まれているような気もして、かなり居心地わるかったりもした。
だから、あえて無視をしていた。

「葛西さんて、最初、私の印象悪かったわよね?」

眼鏡を直し、考えるように視線が動く。
それからお酒を飲み、コップを置くと頷いた。

「良くはありませんでしたね。顧問と話をされている時のはるかさんは、若いお嬢さんのように……和気あいあいと?」

「せめてキャピキャピとか言ってよ」

「ああ。ぴったりですね。まぁ、つまりはそこら辺の女性と同一視してました」

ふむ。

それは正解なんだけどな。


私はどこにでもいる女だし、何かが特別な訳でもないし。

何がきっかけで私なのか……

聞いてみたけど、秘密にされたしな。


考えていたら、目があった。


「なに?」

「いえ。美味しそうだと」

「ん? うん。美味しいわよ。食べればいいじゃないの、見てないで」

「……では、遠慮なく」

何を思ったのか立ち上がり、身を乗り出して、手を伸ばしてくる。


「葛西さん……?」


瞬きをする私に小さく笑うと、啄むようにキスをして離れていった。

えーと。
ポカンとしていたら、頬杖をついてニコニコと首を傾げている。


「色白なのに紅くて、ぷっくりしていて……いつも美味しそうだと思っていました」

あ、ありがとう。

だけどね葛西さん。

キスって間違っても、お箸片手にコップ酒を持っているような女にするもんじゃないと思うわよ?

もう少し時と場所と状況を考えてくれれば、私だってお返しできるでしょうが。

「時と場所と雰囲気を考えてよ」

「嫌です」

「どうして」

「はるかさんの反応が楽しくなくなる」

「楽しくなくなる?」

「まぁ……」

ちらりと視線が下りて、首筋あたりをさ迷っているのに気がついた。


「なによ」

「雰囲気を出すと、そんなに素直に赤くなってはくれないだろうとは思いますね」

赤くって……


「なんなの!」

「何なのと言われましても……」

「サドなの、紳士なの、腹黒なの、正直なの?」

「どちらかと言うと正直ですかね」

冷静に返されて、何事も無かったかのように、私の持っていたコップにお酒を注ぐ。

「真っ正直と言えるほど正直ではないですが。一言では言えるほど、そんなに人間は簡単でもないでしょう」

「……そりゃそうだけど」
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