猫の恩返し
お前は黙ってろ…とばかりに、溝口が俺を睨んだ


「やましいことがなけりゃ、ちゃんと答えられるだろ?」


「………私………」


ナツの声に、他の物音が一切聞こえないほどの静寂が訪れる


「『私』…何?」


「………トーゴに拾ってもらった猫」


おずおずと答えるナツに、頭を抱える溝口


「………小岩井」


「何だよ」


「言わせてるんじゃないだろうな」


「お前………俺のこと信用してないのか?」


一緒に酒を飲み、バカやって騒いだこともある

俺の中で『溝口』というヤツは、連絡はなくても気の置けない友人だと思っていた

だから、正直ショックというか情けない


「悪いけど…こういう仕事をしてると、身内だから安心…なんて一つも思っちゃいない。お前も分かるだろ?」


首の後ろに手を回し、俺を見上げる


「身内が一番信用ならない…。犯罪に一番近い場所に居るんだ………。それに染まるヤツも嫌ほど見てる」


溝口の言葉に、署の入り口から連行されてきた被疑者のことを思い出した

普段は裏から入ってくるため表から連行されてくることはないが、その時は怒号が飛び交い、カウンターに居た一般市民や俺達事務の人間は呆気に取られ、署の空気が凍ったことを覚えている
< 46 / 215 >

この作品をシェア

pagetop