麗雪神話~炎の美青年~
セレイアが服の裾を裂いてぬめる右手に巻きつけている間、ディセルが意識を集中させ、ムカデを囲うように氷の壁をつくっていく。

ムカデは氷の壁にぶつかりながら突進を繰り返し、セレイアを執拗に狙ってくる。ムカデがある程度以上近づいたその時、目の前にできた氷の壁にぶつかって、ムカデに隙ができた。氷の壁が衝撃で崩れた直後、セレイアはムカデの前に飛び込み、布を巻いて滑らなくなった右手で、槍を取り戻した。

しかしまだまだ戦いはこれからだ。

「あいつの動きをもう少し止めることができれば脳天に槍を刺せるのだけど…」

ディセルの氷の技も、ムカデの速さにはついていけない。

どうしたものかと二人が思案した時、視界の端に人影が映った。

ぽてぽてと歩く、まだ幼い子供だった。

「ママ、ママ―! どこ~!?」

ムカデが子供の姿に気づく。

―まずい…!!

二人が真っ白になったその時、子供の前に躍り出る、新たな人影があった。

きらりと光る湾曲刀が、ムカデの攻撃を弾き返す。

その持ち主は堂々とした体躯の男だった。

彼は子供をかばって立ち、太い腕で湾曲刀を構えなおす。

―誰…?
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