麗雪神話~炎の美青年~
「さ、お嬢ちゃんもいつまでも呆けてないで、さっさといくぞ。
あいつに呼ばれてるんだからさ。首飾り、返してもらわねぇと」

「あいつ、って……」

さっさと前を歩き出したブレイズの背中を、二人はしばらく呆然とみつめてしまった。

しかしこのまま彼を行かせるわけにはいかない。

「あの! ブレイズさん」

やっと声が出た。前に進もうとしたセレイアは何かにつまずいた。

気を失った不埒者ビッチィである。

「ビッチィさんは…」

「あん?」

ブレイズが半身を返した。

「ちょっと気絶させただけだから、そいつならほっときゃ勝手に目を覚ますぜ。ほら、行くぞ二人とも」

「セレイア、どういうこと? なんかブレイズさん、性格が変わっているけど…」

「私にもわからないわ」

何が何だか、である。

しかしディセルの声を聞いたら安心して、かなり冷静になってきた。

「とりあえず、彼はブレイズさんよ。引き続き、いえ今度こそ彼を守って進みましょう」

セレイアが立ち上がってブレイズを追い歩き出そうとすると、ディセルが止めた。

「セレイア…。もうあんまり無茶、しないで。心臓がいくつあっても足りない」

そう告げたディセルの目があまりにも寒々しい色をしていて、心底から心配してくれたのがうかがえた。セレイアは素直に申し訳なく思った。

「…ごめんなさい」

「…うん」

ちょっと沈黙が落ちた。

やがてディセルがきゅっとセレイアの手を握った。

そしてそのままブレイズを追って歩き出す。

もうはなすまいとするその手のぬくもりに、セレイアはあたたかな気持ちが胸に広がっていくのを感じていた。
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