……っぽい。
 
涙だけはこぼすまいと必死に耐えている私に近づき、親指で溜まっていたそれをそっと払った笠松は、やっぱり悲しそうに微笑み、こう言う。


「先輩は無自覚に人に尽くしすぎるから、うっかり好きになっちゃう男がいたらとか思うと、不安で不安でたまらないんです。俺のほうが年下だし、そういうところでも、俺が勝手に引け目っていうか、負い目を感じてて。先輩に気を遣わせてるところ、たくさんあるでしょ?」


笠松が言わんとすことは、おそらく私の“29歳”という年齢に伴う結婚並びに出産の“リミット”というプレッシャーのことだろう。

私はそれを、若いうちから不自由をさせてしまうんじゃないかと考えていたけれど、笠松は逆に、私に早く女の幸せを感じさせてあげようと一人、孤軍奮闘していたのかもしれない。


「でも……でもね、笠松。私は、笠松に今、自分の思う通りに頑張ってもらいたいの。課長ね、笠松がいなくなったあとで言ってたんだよ、笠松君ほど適任者はいないのにって。その期待に応えるべきなんだって、笠松は」

「違う、そうじゃない。俺は、いつまで先輩が俺のことを好きでいてくれるかマジですっげー不安なの。自分の思う通りに頑張るなら、先輩と一緒にいる時間を大事にすることを頑張りたい。不安が消えるくらい、もっともっと先輩に好きになってもらうことを頑張りたい」

「笠松……」
 
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