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第二十三章
「やれやれ。とにかく良かった。これで元通りじゃな」

 太郎坊が、息をついた。

「まさか伏見の小薄殿を連れてくるとはの。……そうよな、それぐらいの力の持ち主でないと、おりんを戻すことなど出来なかったであろうな」

「師匠。小薄様をご存じで?」

 怪訝な顔で問う貫七に、ちろりと太郎坊は目を向けた。

「わしの正体は聞いたであろ。天狗と天狐は同等よ。種が違うからの、普段は交流などない。種が違う、ということは、持つ気が違うということじゃ。纏う気が違うと、同じ空間にいるのがきついからの。小薄殿は結構な地位じゃし、まぁ大抵の物の怪は知っておる」

「そうか。小薄様も師匠のことは知ってるようだったし。それにしても、無償でやってくれるとはね」

 ほとほと感心した貫七だったが、太郎坊は、微妙な表情で、ちょい、と家の壁を指した。
 雲が突っ込んだところの壁はぶち破られ、大穴が開いている。

「家を壊したのだから、無償というわけでもない」

「……確かに」

 小さな小屋である家の壁をぶっ壊したのだから、結構な被害だ。
 とりあえず戸板を外して、穴を塞いだ。

「それにしても貫七。立派になったの」

 ようやく腰を落ち着け、太郎坊は貫七をしげしげと見た。
 そういう太郎坊のほうは、十年前と全く変わっていない。
 人外なのだから、途方もない時間を生きているのかもしれないし、そこはもう不思議ではないが。
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