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「旦那さんも、厄介な奴を囲ったもんだねぇ」

「でも、いい機会とも取れます。若君のことも、いずれはどうにかしないといけないことですし」

 何か吹っ切れたように、政吉が言う。
 そのとき、すらりと襖が開いて、お嬢さんが帰って来た。
 政吉が頭を下げる。

 お嬢さんは腰を下ろすと、おりんに手招きした。
 貫七の膝にいたおりんは、ちょっと貫七を見上げる。

「お嬢さんは、おりんがお気に入りかい」

 軽く言い、おりんを促す。
 少し不満そうな顔をしたおりんだったが、幸か不幸か猫なので、微妙な表情の変化は気付かれない。
 しぶしぶおりんは、お嬢さんへ歩み寄った。

「ところでよ。お嬢さん、名前は何てんだい?」

 ふと、貫七がお嬢さんに問うた。
 別に『お嬢さん』といえば、ここでは一人しかいないので、名など必要なかったのだが、どうも壁があるのだ。
 一緒に旅をしているのだから、もうちょっと慣れて欲しいものである。

 貫七は、お嬢さんの声も聞いていないのだ。
 お嬢さんは、少しの間だけ、貫七を見、ぷい、と横を向いた。

「……まぁいいけどな」

 すでにお嬢さんの正体を貫七が知っている、ということは、政吉から聞いているはずだ。
 だが自ら男であることがわかるような行動をするのは抵抗があるようで、相変わらず態度は女で通している。
 政吉が、小さくすみません、と頭を下げた。
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