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「木霊なんてよ、前から返ってくるに決まってらぁ」

 ぐ、と政吉が引き下がる。
 がくりと頭を垂れる貫七の膝で、おりんが慰めるように貫七を見上げた。

「でも……何もしないよりは、いいかもしれません。明日にでも行ってみますよ」

 政吉が言ったとき、また前の甘味処に行っていたお嬢さんが帰って来た。
 部屋に入るなり、真っ直ぐに窓辺に寄る。
 そして、二人に向かって手招きした。

「ちょいと。あそこにいる娘。あいつ、気になるよ」

 見てみると、店先に一人の娘らしき編み笠の者と、二、三人の連れがいる。
 全員手甲脚絆に杖を持った、旅姿だ。

「普通の旅人のナリだが……。なるほど、お付きの者の雰囲気は、ただ者じゃねぇな」

 年配の者が一人と、用心棒のような、がっしりとした体格の男が二人。

「あそこの子と仲良くなってさ、話してたんだけど。そのときに、あの爺さんが、ちょっと気になること言ってたんだよ。稲荷山には、全国からいろんな術者が集まるんだってね、とか。そういう話をその子に振ってさ、世間話っぽかったんだけど、最後にさ、腹の赤子の状態を見られるって者もいるんだって? って。嬢様の懐妊のお参りに、ついでに観て貰うとか」

「ふーん……」

 貫七は窓からその一行を見た。
 まだぱっと見てわかるほどではないが、あの娘が身籠っているのだろう。
 先程から、爺さんは何かを店の者に訊ねている。

 ちら、と貫七は、おりんに目を移した。
 心得たもので、おりんはそっと立ち上がると、政吉たちに気付かれないよう、部屋を出て行った。
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