オトナの恋を教えてください
「それは……大変でしたね。志辺さん」


「女房は俺が営業部にいた頃は、ほとんど母子家庭みたいな状態で頑張ってくれたんだ。俺が女房にしてやれることって何かなと考えてね。それで、娘夫婦がいる小山に家を買って移り住もうかって」



私は理解を示すために何度も頷く。
寂しいけれど、奥様のためにと言われたら、私に引き止める権利はない。


「ちょっと厄介な仕事だけど、この部署で一番若くて未来のある三条さんに任せたいと思ってるんだ。宇都宮くんや山梨部長も手伝うから、お願いできないかな」



はい、と答えるべきなんだろう。

お世話になったお父さんみたいな志辺さんを安心させたい。
憂いなく退職させてあげたい。


だけど、私が受けていいものじゃない。

だって、お見合いをして結婚が決まったら、母は私にこの会社を辞めさせるだろう。
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