オトナの恋を教えてください
*
その日の夜は、高田馬場からほど近いバーでジャズイベントがあった。
大学の友人がチケットをくれたんだけど、いろははきっとこういう場所が好きなはず。
ちょっと気の利いた大人のデートっぽくなるし、ちょうどいいだろうと連れてきたんだけど。
「いろは、なんかあった?」
「はい!?……何もないですよ?」
いろは本人が上の空なのだ。
いや、正確にはジャズの演奏がはじめるといろははうっとりと聞きほれる。しかし、演奏が終わるとなんだかぼんやりしてしまう。
演奏の余韻というわけじゃなさそうだ。
だって、今日いろはと待ち合わせた瞬間からこうなんだから。
どうしちゃったんだ、こいつ。
変な女だとは思っていたけれど、覇気がない女ではない。
いつだって楽しそうにくるくる表情を変えるヤツなのに。
今日はまったく呆けている。
なんだか、輪郭すら滲んで見える。