オトナの恋を教えてください
「悪い。一瞬、ぼうっとした。飲みすぎたかな」


頭の中で繰り広げられていた煩悶を彼女に悟られるわけにはいかない。

いろはを抱きたい。
だけど、今夜限りなんて我慢できない。

相克するふたつの欲望は、俺の中だけで始末をつけるべきこと。

いろはは俺を見つめていた。
ベッドに仰向けになり、先までの愛撫で頬こそ赤いものの、静かで透明な瞳で俺をじっと見据えていた。


「柏木さん、やめにしましょう」


「え?」


思わぬ提案だった。

いろはに怖気ていると思われたのだろうか。


「大丈夫。飲みすぎたって言っても、反応しないわけじゃない。心配しなくていい」


「そうじゃありません。やめにしたいのは……私の事情です」


いろはの事情。

……抱かれたくないというのは、いろはの意思。

心から狼狽も煩悶も掻き消え、なんだか力が抜けてしまった。
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