【好きだから別れて】
もちろんわかっていた。


付き合う意味を。


付き合うって事は「そいつの女」になり相手と体を重ねなきゃいけないって。


大切に温めた体に残る悠希の温もり。


染み付き消えない温もりを痛めつけるようにかき消す。


「愛して」なんて口にしない。


「愛してる」なんて口にしない。


ただただ演技してよがって、いったフリをして。


真也の上で腰を振り続けた。


――あたしは元が汚い女なんだ。一人や二人やった人間が増えたって変わりやしねぇ。汚せよ徹底的に。てめぇ悠希忘れさせんだろ?やれるもんならやってみろ


真也の前では徐々に好きになってますなフリをして騙し、その割に雑に扱う。


根っからの性悪女の体は、日に日に悠希のぬくもりを真也の温もりに塗り変える。


でもあたしは…


それでもあたしは悠希の温もり忘れられないでいた。


悠希があたしを求める瞬間を。


愛しそうに頬に手を添えてキスし、目が合うと照れながら


「好きだ」


「歩。大好きだ」


何度も必ず言うセリフを…


悠希の吐息。


重なる肌。


ワザとつけた爪跡。


唇の感触。


悠希のぬくもりを何一つ忘れてない…


なのにあたしは悠希じゃない男の腕の中で眠っていた。


愛していないのに。


真也を愛していないのに…


好きなフリをして汚い体を重ねる。


女として本当に最低な事をしていったんだ。
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