【好きだから別れて】
「はい。最後だからね~次陣痛の波が来たら赤ちゃん吸引して取り出すよ~。その時お母さんがしっかり息まないと赤ちゃん出れないからねぇ。赤ちゃんの頭は見えてるんだ。ラスト頑張るんだぞ!」


「頭!?えっ、見えてるの!?」


「しっかり見えてるよ。ここまで赤ちゃんは頑張ってくれたんだ。お母さんがもう一息!いいか!頑張れよ!」


「やる!頑張る!!」


振り乱した前髪を左手でかき分け、気合いの入れ直し。


そこから不馴れな呼吸法を懸命に続け、次に訪れる陣痛に魂を込める準備に励んだ。


陣痛の感覚は一分もない。


本番は目前。


来るならこい。


四の五の言ってねぇで終わらせてやる!


そして、怒涛の波が「なめんなよ」と言わんばかりに腰めがけ押し寄せてきた。


これほどまでにない痛みが骨盤を刺激し、骨という骨がこっぱみじんに砕けてしまった感覚があたしを襲う。


右を向こうが左を向こうが痛みが減るなんて生やさしかない。


命懸けで世の母親は子を産み落とすんだ。


ここで気絶したらあたしは母親になる資格などない。


何がなんでも負けれない一世一代の大勝負だ。


「はい!息んで!!」


「ふ、ざ、けんなぁあああ!!うーーんんんぅ!!」


「うまいうまい。その調子だ!」


「うぅうううんんん!!」
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