【好きだから別れて】
「力抜いて!」


医者の奇声に近い声が耳に入り、我に返ったあたしは渾身の力をゆるめ両手をダラッと下におろした。


力を入れすぎたせいか両手両足がガタガタ震え、肘・膝が笑っている。


顔も力み過ぎてきっと凄いことになってる。


もう一度同じ力を出せと言われたら出しきるのは到底無理で、自分の身に起きている非常事態で脳内は錯乱していた。


と、そんな状況の中。


自分の意志ではないのに、下半身から生温い液体と異物が放出された。


その瞬間。


スッキリ感が瞬く間に広がり、まるで幽体離脱したかのような脱力感があたしを包み込んだ。


なんなんだ。


この感覚は…


「おめでとう~男の子だよ~よく頑張ったね」


「あらぁ~。可愛い子だこと」


「本当。顔がしっかりした子だわぁ」


緊迫していた空間だったのに、やけに和やかな温かい色が部屋を埋め尽くす。


周りに飛び交う声色達が歓喜に満ち溢れていた。


「今赤ちゃん泣かせて綺麗に洗ったらすぐお母さんに見せるね」


「赤ちゃん見たい…」


「すぐだから」


管を口に入れられ羊水を取り除いて貰った我が子は遠巻きに「ンンギャ~ンギャ~」と苦しげに初めての産声をあげた。


赤ちゃんが血を洗い流して貰っている間。


いつの間にかハサミで切られていた下半身を医者が縫う処置をしてくれた。
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