【好きだから別れて】
麻酔してくれたわりに効ききらない麻酔薬のおかげで、一針一針しっかり刺さってる感じがして「やめて!」と叫びまくっていたら、白いタオルにくるまれた真っ赤な我が子があたしの目の前に差し出された。


「手足付いてる!?ちゃんと見せて!」


「大丈夫。五体満足、元気な男の子!」


顔より何より即座に見たかった体のパーツパーツ。


細い腕の先に伸びるしなやかな五本の指。


「不細工だろうとバカだろうと五体満足であって欲しい」と強く願い続けていたあたしは、小粒な小さな手の指を数え、涙を溜めた。


「よかったぁあ…文句ないよ…」


「顔立ちのしっかりした美形ちゃんよ。ほら」


「あはっ。頭長いし」


「それは仕方ないの」


吸引で引き出された我が子の頭はひょろ長く、ちょっと笑っちゃう不細工な頭の形をしている。


それは自力で産みきれなかった証拠。


くっきりと頭に残されている痛々しい証拠があたしと我が子を親子にしてくれた。


ママのせいで苦しめちゃったね。


息も苦しかったよね。


ごめんな…


懸命に息を吸い胸を膨らませる小さな小さな命は


20××年10月5日。


思ったより安産だったのか陣痛から六時間後。


この世に生をうけた。
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