雨に似ている
下村楽器店は老舗で国内でも名の知れた楽器店だ。

音楽大学や音楽に携わる者の御用達といった、大手の楽器である。

著名な演奏家が、自身の楽器を注文に来たりメンテナンスを任せたりもする。

何千万もする高価な楽器や有名な工芸家の作った名器を輸入し取り扱っている。

「1890年代フランス、エラール社製のメチャクチャ豪華なピアノ。ルイ14世時代の装飾スタイルで『ピアノの貴婦人』って別名のな」

「ヘェ~、200年も前のピアノ! スゴいね」

「だろ! まあ、そんなピアノだから当日弾かせてはくれないだろうが拝むくらいはさせてくれるだろう」

理久は言いながら、詩月の反応を窺う。


「理久。見たい、そのピアノ!」

詩月の声が弾んだ。

理久は満足そうに微笑み、ジーンズのポケットから携帯電話を取り出し、楽器店と手短に交渉を済ませると詩月に伝える。

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