雨に似ている 改訂版
風に向かって立つ……
雨が降り始めた。

詩月のピアノの音色に音を重ねるように、ポツリポツリ雨が降り始めた。

「音楽は音を楽しむことだ。自分自身が音を楽しまなきゃ、いい演奏なんかできないだろう」

詩月の頭の中で、理久の言葉が響いている。

屋上で郁子に「希望は絶望から生まれない」と言われたことも、ピアノ主任、西之宮が「お前は周桜Jr.ではない。周桜詩月だ」とレッスンのたびに繰り返した叱責も、詩月の中で全てが1つに繋がっていく。

誰かの演奏を真似するのでなく誰かと比べるために弾くのでもない。

ただ自分の心が、作曲家の楽譜を借り自分の指で自分自身の音を奏でる。

父親に似たショパンの演奏に悩み悩み疲れ壊れたまま、2年前のコンクールで優勝し自分自身の音を見失い、どう足掻いても克服出来なかった「ショパン」。

辛く苦しい日々の中、何度も数え切れないほど練習し弾いてきた「ショパン」の曲が詩月の中で溢れた。
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