雨に似ている
けれど……貢も郁子もただ、はっきりと違和感を感じた。


「違う!!! 初めから」

吠えるようなピアノ主任教授、西ノ宮の怒鳴り声が扉越しに響く。


「違う、最初からだ。何度言わせるんだ」


――文句のつけようなどない完璧な演奏じゃないか


2人は思うが、練習室の扉越しに聞こえてくる怒鳴り声は、激しく捲し立てる。


「またかよ」


「さっきから、ダメ出しばかり6回目だぜ」


「この演奏のいったい何が……いけないの?」

最初から、レッスンの様子を聴いているらしい学生達が、扉越しの怒鳴り声にうんざりした様子で話す。


「周桜、何を考えて弾いているんだ?」


「……」

短い沈黙の後。
怒鳴り声から一転し、落ち着いた様子の声が聞こえる。


「確かに完璧な演奏だ。だが……お前は、まだ本気で弾いていない。誰も気付かないとでも、思っているのか?」


返事は聞こえない。


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