極上ドクターの甘い求愛



「…別に、何もないよ。」


こんなプライベートなこと、再会したばかりの日野くんに言えるわけない。


『…さっき、購買でお前見たぜ。』

「えっ?」

『咲坂!って呼びかけたんだけど、めちゃくちゃスルーされた。…あれ見て、何もないなんて言われても納得できるわけないだろ。』


私に注がれる日野くんの真剣な眼差しに、息を飲む。

その瞳は、私に早く言えよ、と急かしているようにも見えた。


「…そんな、大したことじゃないよ。」

『何でそんなに隠すんだよ。』

「…日野くんには関係ないことだから。」


もう私達は、昔の時のような関係じゃない。何でもかんでも言いあえるような、そんな親密な仲でもない.

今の私と日野くんは、薬剤師と患者の関係で、医療人である私が、患者さんの前で弱音を吐くことなんて、許されない。

"日野くんには関係ない"

その一言で、何故か執拗に迫ってくる日野くんを遠ざけた。


『…あるよ。』

「え…っ?」


――はずだった。



< 177 / 234 >

この作品をシェア

pagetop