2・5次元の彼女
今にも殴りかかりそうな景斗の剣幕に、私は慌てて背中にすがりついた。
「待って! 景斗!?」
目に入ってきた景斗の横顔は、今まで見たこともないくらいに怒りが溢れていて、背筋が凍る。

信じられない。
いつも穏やかな景斗がこんなことをするなんて。

驚いたのはHARUも同じだったらしい、首元を締め付けられているにも関わらず、抵抗することも忘れていたようだ。
呆然としていた表情がやがて苦しみのそれに変わり、HARUは慌てて景斗の手に自分の手をかけた。

「落ち着けっ……景斗!」
HARUが思いきり手を振り払う。
景斗の身体が後ろへと飛び、弾かれた私もたたらを踏む。
HARUは襟元を正しながら、肩で大きく息をした。

「……彼女にも話したが、脅すようなことに使うつもりはないよ」
「じゃあ一体何のつもりで……!」

相変わらず噛み付きそうな目をしている景斗に、HARUは余裕の顔で返す。
「わかんないかな? 独占したくなる気持ち」

その挑発は見事景斗の心へ油を注ぐことに成功したらしい、景斗はHARUの腕に掴みかかった。

「わかりたくもないよ! 妻子がいるのに、他の女性に手を出すヤツの気持ちなんて」
「……っ!」

言い逃れようのない詰問に、HARUはあからさまに嫌な顔をした。
その苛立ちを解き放つかのように、掴まれた腕を大きく振り払う。

再び景斗の身体が宙を舞う。今度はバランスを取りきれず、後ろの壁に大きな音を立てて激突した。

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