2・5次元の彼女
「とっくに付き合ってるかと思ってた」
呟くと、イリーナは諦めたように大きなため息をついてうな垂れた。
「……なにやってんだよ景斗、せっかくライバルがいなくなってチャンスだっていうのに、いつまでもモタモタして情けないなぁ。やっぱり俺がちゃんと指導してやらなきゃダメなのかな」

これは独り言だろうか。
その割にはあまりにはっきりと聞こえてしまって、私はどうしたらよいのか分からず口ごもる。
「……だいたい、景斗には彼女がいるんだし、私と付き合うとかそういうのは……」

私の言葉に再びイリーナは目を見張った。
「いや、景斗に彼女なんていないでしょう?」
「へ?」
またしても漏れてしまった素っ頓狂な声。

だってこの前、一緒に目の前で見たじゃないか。
景斗の携帯電話に、彼女から連絡が入るところを。

「前にみんなで会ったときに、景斗の彼女の話、してたよね? 覚えてないの?」
「それなら、もうとっくに別れたはずだけど……って、聞いてないの?」
「……」

聞いてないよ、そんなの。
思わず呆然としてしまう。

そんな私の表情を覗き込みながら、イリーナは首を傾げる。
「ひょっとして、ユウさんは、ずっと景斗に彼女がいると思っていたの?」
「……うん」
私が頷くと、イリーナはやれやれと余計に疲れた顔をした。

確かに、ちょっとおかしいと思っていた。
彼女がいるのに、休日の昼間っからゲームにログインしていたし
平日の夜だって、デートしている風もなかったから、一体いつ彼女と会っているのだろうってずっと不思議に思っていた。

そっか、別れてたんだ。
ふーん。なるほど。
そりゃあ、誰と付き合って、誰と別れてなんて、いちいち報告することでもないけどさ……

イリーナには話したくせに、私には教えてくれなかったことが、なんだか寂しかった。
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