幸せそうな顔をみせて【完】
「なんで……?」


 私の言葉は至極真っ当だと思う。確かに会いたいと思っていた。でも、いきなり連絡もなしに訪れるなんて正直驚く。せめて待っている間にメールの一つでも欲しかった。いつもの副島新ならきっと連絡をしてからでしか来ないだろう。


「なんでって…葵に会いに来たに決まっているだろ」


「どうやって入ったの?」


「あ、同じ会社の経理の人が入る時に一緒に入って、でも、色々面倒だから、俺は一緒にエレベーターには乗らなかったから階段で上がってきた。それよりも入っていい?」


 ここは五階。ここまで階段で上がってきたのだろうか?でも、息が切れている気配はない。私ならもしも階段で上がってきたなら…。今は息切れして話すことさえ難しいだろう。


「あ、うん。でも、そんなに綺麗にしてないけど」


「そんなのはどうでもいい。すぐに帰るから」


 副島新は玄関先に入ると、スッと手を伸ばして、私の身体を自分の方に引き寄せた。気を抜いていたというのもあるけど、さほど力の掛かってなかった身体はすぐに副島新の胸の中で抱きしめられていた。


「ちょ……どうしたの?」


「今日は一日。こうしたかったから。葵不足だったから補給中。少し汗臭いかもしれないけど我慢しろ」


 そんな言葉を耳元で囁きながら私の身体を抱き寄せる副島新に私はドキドキしていた。一日会えなかったという気持ちが徐々に膨らみ私を包んでいくのを感じていた。
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