幸せそうな顔をみせて【完】
 約束どおりに副島新の奢りだった。


 店を出ると、自然に私の右手は副島新の左手に包まれる。見上げると、優しい微笑みが降り注いでいて、少し細められた瞳にドキッとする。いつもならこんなことはないけど、当たり前という風に手を重ねることがとっても嬉しいし、幸せだった。


 火曜日の夜、時間も遅いと言うこともあって、金曜日や土曜日のような人通りはない。でも、私たちのように並んで手を繋いで歩いている人もいる。自分がこんな風に手を繋いで歩いているからか、妙に目が行ってしまう。


「なぁ。そんなに気になるか?」


「そんなことないけど、手を繋いで歩くのは恥ずかしいかも」


 急に声を掛けられた私が副島新の方を見るとさっきまでの微笑みは無くて少し真剣な表情を浮かべていた。そして、私の手をキュッと掴むとそのまま私の身体を引き寄せ、その広い胸に抱き寄せたのだった。こんな人通りが多い場所で急に抱きしめられるとは思いもしなかったから…ただただ吃驚するしかなかった。


 でも、夜だからか、誰も私たちに気を留める素振りさえ見せない。私が知らないだけで夜の街ではありふれているのだろうか?それでも、いきなりの行動にドキドキが止まらない。抵抗しようにもガッチリと抱きしめられていて、緩む気配はなかった。


「ちょ……どうしたの?」


「葵を離したくないと思っただけ」


「周りに人がいるよ」


「俺は気にならない」
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