幸せそうな顔をみせて【完】
 恥ずかしいし困ったと思うのに…身体を包まれる温もりは気持ちよくて、酔いが緩やかに回ってくるような気がする。先ほどの店はお洒落なだけでなく、お酒もお料理も美味しかった。それに個室で静かに楽しめたというのが一番よかったと思う。


 付き合い始めたばかりの私にとって二人で過ごす時間は楽しいものだった。


 そんなリラックスした雰囲気はいつもよりもお酒の量を増やしていて、私はだらんと下げていた手を副島新の背中に回した、抗うことを止めて感じるのは…愛しいと思う気持ち。付き合いだしてたった5日目。でも、私の中では確実にその存在を大きくし続けている。もっと、傍にと思う気持ちはどんどん深くなっていく。


「葵の心臓の音、すげー」


 私がもっと傍にと思う気持ちに気付いたのか、副島新は耳元で甘く囁く。でも、私と同じくらいに副島新の心臓の音もしている。私だけではない。


「仕方ないでしょ。好きなんだから」


 私の言葉に副島新の心臓の音が一段と増した気がした。


「マジで、葵って鬼畜。このタイミングでそんなこと言う?俺にどれだけ我慢させれば言いわけ?」


 我慢も何も、昨日、私のマンションに来て、平日は泊まらないと言ってみたり、さっきも店でも個室だったのに指先に軽く掠ったくらいで手にも振れなかったのは副島新で、私はずっと一緒に居たいとも思っている。自分の言葉なのに、その言葉と行動が伴ってないのは副島新の方だと思う。


「我慢って…」
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