幸せそうな顔をみせて【完】
 明日は土曜日。


 今日は自分のマンションに帰って、明日、ゆっくりと寝てから会いに行ってもいいのではないかと思った。自分の普段着で行った方が楽だし…。それに、今日は色々なことがあり過ぎて一度気持ちの整理が必要かもしれない。


 でも、その言葉は一瞬で副島新の顔色を変えた。そんなに反応しなくていいのに、まるで信号が変わったかのように顔色を変えたのだった。


 綺麗な顔に滲むのは不機嫌な色。失言だったと一瞬で分かる。



「葵を甘やかした俺が間違いだった。強制的に連れて帰る。今日は帰さない」



 そういうと、副島新は私の手をギュッと握るとそのまま歩き出したのだった。いきなりの展開に…私は吃驚もしたけど、それでも、握られた手がとっても温かくて、前を歩く副島新の背中を見つめる。身長の高い彼は背中も広く大きい。


 何度も見たことある背中なのに…。今日は妙にその背中に男の人を感じた。


 駅まで歩くといつもなら電車に乗り込むのに、今日はその場に停まっていたタクシーに押し込まれた。そして、副島新は私が何か言う前に自分のマンションの住所を言ったのだった。電車で二駅の距離にあるマンションには私が思う以上に早く付いてしまう。


 私が考える暇さえなかった。ただ、タクシーの後部座席で副島新が掴んで放さない自分の手を見ているしかなかった。

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