幸せそうな顔をみせて【完】
 尚之の言うとおりだった。私は既に自分の足で立つことなんか出来ない状態で、引き摺られるように店を出ると、少し離れた場所にある花壇の隅に私を座らせられていた。駅までそんなに離れた距離でないのに、それさえも今の私には難しい。


「ちょっと待ってろ。何か飲み物買ってくる」


 尚之は私の目線まで屈むと優しい表情を見せ、私を安心させるかのようにニッコリと笑った。そして、頭をポンポンと撫でてから、少し離れた自動販売機まで行くと何かを買ってすぐに私の方に戻ってきた。手にはお茶の入ったペットボトルが持たれてある。


 それを落さないように私に持たせると、またニッコリと笑う。さっきまでの悲しい表情は消えていた。


「ほら。飲め。少し酔いを醒まさないとタクシーにも乗れない。今の葵は絶対に乗車拒否される」


 そんなことない。これくらい酔っていても乗車拒否なんかされることなんかない。でも、せっかく買って貰ったのだからお茶を飲もうとペットボトルの蓋を開けようとするけど、ツルツルと指が滑って一向に開かなかった。尚之の言うとおり私は本当に酔っている?確かに少しの酔いは感じるけど、それでもいつもよりも少し多めに飲んだくらいの量だと思う。


「貸してみろ」


 尚之は私の手からペットボトルを取ると、さっきまでツルツルと滑っていたペットボトルのキャップをいとも簡単に開けたのだった。


「とりあえず飲め。落ち着いたら帰るぞ」
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