幸せそうな顔をみせて【完】
 私は自分が思ってるよりも酔っているのかもしれない。そう思ったのはお茶の味が全くしないところからだった。冷たいのは分かる。でも、これは緑茶なのに、その味が全くしない。それでも尚之の前で酔ってしまった自分の姿を見せたくなくて酔ってない風に装う。無駄な足掻きかもしれないけど、私なりにプライドもある。


 さっき、尚之に会った時に『今の自分は幸せだ』と言ったのにあれからそんなに時間も経ってない。それなのにこんなところで煽るようにビールを飲んでいる姿を見られたくなかった。


「ねえ、どうしてあの店に居たの?」


 買って貰ったお茶を飲みながらそういうと、尚之はフッと息を吐き、両手を組んで座っている私を見下ろしている。不機嫌というより心配してくれているのは私でも分かる。別れたとはいえ、嫌いで別れたわけでもないし、付き合う前はずっと友達だった。面倒見の良さは変わってないのかもしれない。


「駅前でラーメン食って。酒が飲みたくなってあの店に行った。ただそれだけだよ。本当に駅の店が多くて入れなかったから仕方なくここにきて、で、入った時は気付かなかったけど、しばらくして葵が一人で飲んでいるのに気付いた。酒が強いわけじゃないのに酔うほど飲むなんて、何かあったとしか思えないだろ」


「ただ、飲みたかっただけ」


 副島新が女の人と一緒に歩く後ろ姿があまりにも苦しくて私はお酒に逃げた。でも、それを尚之にいうつもりはない。
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