幸せそうな顔をみせて【完】
「ねえ、怒らないで聞いて」

「ん?」

「行くのは嫌じゃないけど、仕事帰りのスーツは窮屈だから、着替えを取りにいきたい」


 仕事が終わって、居酒屋で飲んで帰ってきて、この後、ずっとスーツのままではキツイと思った。スーツを着ているといつまでたっても仕事が終わらない気がしてしまうから、自分の部屋に帰ったら直ぐに私はスーツを脱ぎ捨てて部屋着に着替える。


 でも、このまま副島新の部屋に行くなら、せめて着替えくらいは取りに行きたい。帰るにしろ帰らないにしろ、着替えは欲しい。


 私がそういうと、副島新はクスッと笑うと一枚の扉の前に立ち止まると鍵を差し込んだのだった。ドアに貼られたプレートには『1215』とある。副島新の部屋だった。


「俺の服を貸してやるから心配しないでいい」


「でも」

「とりあえず入れ」


 そう言ってドアが開かれると同時にパッと玄関にライトが灯る。ドアが開くと同時にライトがつくようになっているのだろう。それにしても…同じ会社借り上げのマンションなのに私のマンションよりもちょっと覗いただけで広いというのは分かる。


 玄関のたたきの部分から広さが違うし、横に備えられているシューズケースも大きく天井まで伸びている。そんな玄関で立ち止まった私の手を副島新はそっと離してくれた。そして、自分はさっさと廊下を歩いてリビングの方に向かって歩いていく。


「鍵は締めといて」


 言われるがままに靴を脱ぎ、綺麗に揃えてから、玄関の鍵に手を添える。一瞬、躊躇ったけど、カチャっという音を立てて私は鍵を閉めたのだった。

< 19 / 323 >

この作品をシェア

pagetop