幸せそうな顔をみせて【完】
「お邪魔します」


 私は廊下を歩いていくとガラスのドアの向こうにリビングらしきものがある。そのガラス越しに部屋の中に入ると、ちょっと覗いた時に感じたのは間違いじゃなかったと確信した。副島新の部屋は私の住んでいるマンションの部屋とは比べようがないくらいに広かった。私はワンルームなのにズルいと思ってしまう。


「なんでこんなに広いの?」


「あ、ここは単身者用じゃないから。俺が申し込んだ時はここしか空いてなかったからここになった。でも、多分、葵に比べると俺の方が家賃を多く払っているはずだから」


 そういうと、副島新はバサッとスーツを脱ぐと無造作にリビングの横のドアを開けた。真っ暗なその部屋は寝室らしく、大きめのベッドが目に入ってしまった。そんな寝室からばっと目を逸らすと、私はどうしたらいいのか分からなくてその場に立ち尽くしてしまう。


 急に緊張が戻ってきた。


 寝室から出てきた副島新はネクタイまで緩めていて、手には何か服を抱えていた。そして、それを私に手渡すとまるで子供をあやすように優しい表情を浮かべて私を見つめる。


「きちんと洗濯してるから、着替えて来い。スーツはキツイだろ。それとこれは脱いだスーツを入れる袋。バスルームはリビングを出てすぐ左のドア」

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